破断実験02

ロープにノットを作ると、そこでロープ強度の損失が生じます。

代表的なノットのダブルフィギュアエイトノットでは、ノット部分で本来のロープ強度は30%から50%程度が損失されるとされています。

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理由としては、「ロープが急角度に折れ曲がるから」と理解しています。

そして、ロープの折れ曲がりが極めて緩やかなテンションレスヒッチであれば、ほとんどロープ強度を損失することなくロープを運用できます。

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したがって、ロープの折れ曲がりが緩やかなほどロープの強度損失は少なくなるはずです。

そこで、グリグリ、ストップ、リグなどのオートストップ型ボビン系下降器は直径5?程度のボビンにロープを巻き付けて使用するので、ロープの折れ曲がり具合としてはエイトノットよりも緩やかで、テンションレスヒッチよりも急角度です。

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ロープの折れ曲がり直径
ダブルフィギュアエイトノット < オートストップ型ボビン系下降器 < テンションレスヒッチ

なので、オートストップ型ボビン系下降器を使った際のロープの強度損失はダブルフィギュアエイトノット以下、テンションレスヒッチ以上となると思っていました。

ロープの強度損失
テンションレスヒッチ < オートストップ型ボビン系下降器 < ダブルフィギュアエイトノット

と思い込んでいました。



間違っていました!

ベアール製10.5?新品ロープ(引張強度28KN)をストップにセットして引張試験を行いました。

予想としては引張強度28KNのロープの70%(ダブルフィギュアエイトノット)以上は強度が出るはず(20KN以上)と思っていました。

結果は、ハードロックしなかった場合は20?スリップ後、6KNでシースが破れてコアのみになりました。

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ハードロックした場合は8KNで、同じくシースが破れてコアのみになりました。

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グリグリでも試験しました。

ハードロックしなかった場合はロープのスリップが続き切断に至りません。

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ハードロックを行った場合は10KNでロープが全破断しました。

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さらにグリグリ本体のボビンやプレートに塑性変形が生じており、プレートの開閉ができなくなっていました。

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ロープを替えてエーデルリット11? 5年使用ロープをストップで実験しました。

11KNを超えたところでバキーン!!とすごい音がして顔の横をかすめて何かが飛んでいきました。

ストップが破断していました。

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なんということでしょう!

ぷっすり刺さっていてもおかしくありませんでした。

ふぅー、危ない危ない。


ここまで実験して、オートストップ型のボビン系下降器は予想をはるかに上回るロープ強度損失を生じさせることがわかりました。

そしてそのロープ破断はいずれもボビンの出っ張りがロープを押し挟む部分で起こっていました。

ロープを押し挟んで捕まえる部分が弱点になるようです。

そういえばマイクロセンダーがシースを食い破る状況に似ています。

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ちなみにこれはエーデルリット11? 5年使用ロープが11.5KNで破断。
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では、ロープを押し挟むことがない非オートストップ型ボビン系ディッセンダー(シンプル、イーグル)であればよいのではないかと思いました。

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シンプルで実験しました。

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ベアール製10.5?新品ロープ(引張強度28KN)使用で14KNまで荷重しましたがロープに損傷は生じませんでした。

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しかしフレイノを使用したせいでシンプルが少し斜めに荷重されて、シンプル本体が塑性変形してしまいました。

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しかし予想通り、押し挟み部分がなければロープの強度損失を少なくできることがわかりました。


ちなみにφ7?のプルージックコードは8KNでコードが破断しました。

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さて今回の実験で分かったことは、

?オートストップ型ボビン系下降器はロープを押し挟む部分に弱点があり、6KN程度でロープが破断する可能性がある。(本来のロープの残存強度にも依存するので注意)

?非オートストップ型ボビン系ディッセンダーであればロープの強度損失は少ない。

?張力が10KNを超えるとディッセンダーが曲がったり割れたりといった変形が生じる。

?日ごろの行いが良くないと、割れて飛んできたディッセンダーが突き刺さる。

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でした。

目から鱗が落ちた有意義な実験でした。

高荷重で運用するチロリアンブリッジのメインディバイスは、オートストップ型ボビン系下降器よりもやはりプルージックをタンデムで用いるのが妥当ということになるでしょうかね。

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お知らせ

明日からまた一週間ほど海外某国で出張SRT現地講習です。

メール・お電話、10月5日までお返事できなくなります。

ごめんなさーーい。

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2015/11/20 14:29 Update
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